文学とレディオヘッド。

 


Radiohead - There, There

 

In pitch dark I go walking in your landscape
Broken branches trip me as I speak
Just because you feel it doesn't mean it's there
Just because you feel it doesn't mean it's there
There's always a siren singing you to shipwreck
(don't reach out, don't reach out [x2])
Steer away from these rocks we'd be a walking disaster
(don't reach out, don't reach out [x2])
Just because you feel it doesn't mean it's there
(there's someone on your shoulder [x2])
Just because you feel it doesn't mean it's there
(there's someone on your shoulder [x2])
There there...
Why so green
And lonely? [x3]
Heaven sent you
To me [x3]
We are accidents waiting
Waiting to happen
We are accidents waiting
Waiting to happen
 

今回はRadioheadのThere Thereという曲について。Radioheadの曲に好きなものは多いけど、たぶんこれが一番好きかもしれない。曲そのものはもちろん、MVも個人的にとても気に入っている。初めて観たときは、人間(トム)が木に変えられてゆくシーンに衝撃を受けた。

なぜ今さらこの曲に触れるのかというと、ダンテの『神曲』のなかに類似するシーンがあったから。

 『神曲』とは、著者のダンテが古代ローマの詩人であるヴェルギリウスに連れられ、地獄・煉獄・天国を案内される話。地獄・煉獄・天国にはそれぞれいくつかの階層があり、その様子がギュスターヴ・ドレの絵によって描写されている。

 

例えば、地獄の階層は大まかにこんな感じ。

 

地獄界の構造

  • 地獄の門 - 「この門をくぐる者は一切の希望を捨てよ」の銘が記されている。
  • 地獄前域 - 無為に生きて善も悪もなさなかった亡者は、地獄にも天国にも入ることを許されず、ここで蜂や虻に刺される。
  • アケローン川 - 冥府の渡し守カロンが亡者を櫂で追いやり、舟に乗せて地獄へと連行していく。
  • 第一圏 辺獄(リンボ) - 洗礼を受けなかった者が、呵責こそないが希望もないまま永遠に時を過ごす。
  • 地獄の入口では、冥府の裁判官ミーノスが死者の行くべき地獄を割り当てている。
  • 第二圏 愛欲者の地獄 - 肉欲に溺れた者が、荒れ狂う暴風に吹き流される。
  • 第三圏 貪食者の地獄 - 大食の罪を犯した者が、ケルベロスに引き裂かれて泥濘にのたうち回る。
  • 冥府の神プルートーの咆哮。「パペ・サタン・パペ・サタン・アレッペ!」
  • 第四圏 貪欲者の地獄 - 吝嗇と浪費の悪徳を積んだ者が、重い金貨の袋を転がしつつ互いに罵る。
  • 第五圏 憤怒者の地獄 - 怒りに我を忘れた者が、血の色をしたスティージュの沼で互いに責め苛む。
  • ディーテの市 - 堕落した天使と重罪人が容れられる、永劫の炎に赤熱した環状の城塞。ここより下の地獄圏はこの内部にある。
  • 第六圏 異端者の地獄 - あらゆる宗派の異端の教主と門徒が、火焔の墓孔に葬られている。
  • 二人の詩人はミノタウロスケンタウロスに出会い、半人半馬のケイロンとネッソスの案内を受ける。
  • 第七圏 暴力者の地獄 - 他者や自己に対して暴力をふるった者が、暴力の種類に応じて振り分けられる。
  • 第八圏 悪意者の地獄 - 悪意を以て罪を犯した者が、それぞれ十の「マーレボルジェ」(悪の嚢)に振り分けられる。
  • 最下層の地獄、コキュートスの手前には、かつて神に歯向かった巨人が鎖で大穴に封じられている。
  • 第九圏 裏切者の地獄 - 「コキュートス」(Cocytus 嘆きの川)と呼ばれる氷地獄。同心の四円に区切られ、最も重い罪、裏切を行った者が永遠に氷漬けとなっている。裏切者は首まで氷に漬かり、涙も凍る寒さに歯を鳴らす。

 (Wikiから一部省略して引用)

 

ちなみに、最下層のコキュートスで氷漬けにされているのは堕天使ルシファーだ。ゲームのキャラクターとしても使われることが多いので、知っている人は多いと思う。ただし、『神曲』では3つの顔を持つ、見るのも恐ろしい醜い悪魔として描かれており、ゲームの世界でかっこよく描かれているものとはかなりかけ離れている。

話を元に戻そう。There Thereと関わりのあるのは、地獄の第7圏第2の環。いわゆる自殺者の森だ。

 

 

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(絵:ギュスターヴ・ドレ)

 

この谷間は深い森だった。森とは言っても茂る緑は無く、どの木もみんな丸裸だった。木々はどれも異様に曲がりくねったものばかり。ただ目を凝らすと、木々の間に、怪鳥アルピアがこちらをうかがっているのが見えた。怪鳥の声が、時おり森にこだまして森の不気味さをより一層深めていた。

「どんなわずかな望みの芽もアルピアが見のがしはしない。ことごとくついばんで、全てを萎えさせてしまうのだ。」

「マエストロ、先ほどから気になってしょうがないのですが、この地の底から湧き上がってくるような、あるいはどこか遠い処から風に流れて来るような、そうかと思えば耳元で囁くような、このうめき声は何ですか?」

ダンテ。ちょっとそこの枯枝を折ってみろ。」

師に言われて私がそばの枝を折ると、突然悲痛な声がして、折れた枝の先が、たちまち血に染まった。

「やめてくれ、お前には情けというものがないのか、それは俺のだ!」

血と共に言葉が折れた枝の先から吹き出した。

「ここは自ら命を絶った者の地獄、こうして枝木となって、なすすべもなく朽ち果てる。なにかの拍子に折れて地に落ちた枝は、もう二度と、元には戻らない。」

(一部省略して引用。 訳:谷口江里也)

 

このMVが『神曲』の「自殺者の森」を意識して作られたことは、上の3枚の絵を見れば明らかだろう。

これからは、さらに細かく見ていくために、『神曲』とMVのそれぞれに登場する要素を比較し、歌詞にも少し触れたいと思う。

 

怪鳥アルピアとカラス

「怪鳥アルピア」と聞いて、ピンとくる人はあまり多くないと思う。これ、実はハーピィーのことをさしている。

 

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Wikiの写真)

 

上半身が人間の女性で、下半身は鳥という何とも気味の悪い生物(?)である。元は風の女神だったらしいが、なぜ地獄にいるのか不思議な存在だ。おまけに、食料を見ると意地汚く貪り散らかすという悪癖の持ち主でもある。

There ThereのMVでは、ハーピィーではなくカラスが登場する。カラスがゴミ捨場を散らかす場面は誰でも見たことがあるだろうし、「カラス=ゴミを食べ散らかす」というイメージが強いと思う。そのイメージから、MVではハーピィーと似たような習性を持つカラスに置き換えたと解釈することができる。

 

カラスが象徴するもの

イギリスには、アーサー王が魔法によってワタリガラスに変えらた話があるらしい。そのことから、「ワタリガラスを傷つける=王(室)に対する反逆」と捉えられ、不吉なことを招く行為とされている。

ぼくがもう一つ注目したのは、There Thereに"The Boney King of Nowhere"(どこかしれない国のやせこけた王)という副題がつけられているということ。実は、アーサー王が本当は存在しなかったんじゃないかという説があるらしい。その説と副題を結びつければ、"The Boney King of Nowhere"がアーサー王をさしていると解釈できないこともない。

ただ、この項に関しては明らかにこじつけだし、間違っているだろうなと思う。そもそもMVで登場するカラスがどういう種類のものか判別がつかない。また、前項の推測も加味すると、ハーピィー→カラス→アーサー王と繋がるのだけど、これでは話があまりにも飛躍しすぎている。本当のところはどうなんでしょうね…。

 

怪鳥アルピアとセイレーン

There Thereには次のような歌詞がある。

There's always a siren singing you to shipwreck
(don't reach out, don't reach out)

日本盤についている歌詞カードでは、 "siren"を「警告」と訳していたような記憶がある。しかし、これは文脈的に間違いだと思う。"siren"がさしているのは、ギリシャ神話に登場する「セイレーン」だ。セイレーンは上半身が人間の女性、下半身は鳥という姿で、ハーピィーととても似た姿をしている。

 

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Wikiの写真)

 

セイレーンは海の岩礁から美しい歌声で航行中の人々を誘惑し、船を難破させる。これは"a siren singing you to shipwreck"という歌詞にぴったりと当てはまる。また、"don't reach out..."の辺りからトムのファルセットが聞こえてくるが、これがセイレーンの歌声を表しているらしい(ゼア・ゼア - Wikipedia)。

Steer away from these rocks we'd be a walking disaster

(don't reach out, don't reach out)

"steer away from there rocks"とは「舵を切ってセイレーンのいる岩礁から離れろ」、"don't reach out"は「手を伸ばすんじゃないぞ」、どちらも忠告していることを表している。なぜなら、セイレーンの歌声を聴いてしまった人々は最終的に食い殺されてしまうから。

ちなみに、セイレーンは人を誘惑することに失敗してしまうと、自ら海に身を投げて死に、岩に変わる(セイレーン - Wikipediaの「2.物語」を参照)。「自殺して岩に変わる」というのが「自殺者の森」を想起させ、とても興味深い。

したがって、MVにおいて「トムが光を放つコートと靴を見つけ、身につけてしまった結果、カラスに襲われ木に変えられる」描写がなされていたが、これは「セイレーンの歌声に誘惑され、難破した挙句に食い殺される」というギリシャ神話の描写と重なるところがあるといえる。

 

その他に残る謎

暖炉のそばでロッキンチェアでくつろぐネズミ、結婚式を挙げるネコなど、彼らについて詳しいことはよくわからない。MVの全体を通して、おとぎ話のような雰囲気を出すための一つの要素にすぎないかもしれないし、もしかしたら深い意味があるのかもしれない。

また、村上春樹の「ねじまき鳥クロニクル」がモチーフになっているとの話も聞いたことがあるけど、これもよくわからない。それを読んだことがないのでなんともいえない。

 

まとめ

神曲』を読んでから改めて歌詞を見ると、全体を通して『神曲』を意識しているんじゃないかとさえ思う。ただしその理由をここで書くと、読むのがさらに苦しくなることは避けられないので割愛する。まだ読んだことのない人は、ぜひ『神曲』を読んでみてほしい。いろんな出版社から出ているけど、JICCから出ているものがおそらく一番良いと思う。ドレのきれいなイラストがたくさん見れて、感動すること請け合いです。

Radioheadのインタビュー記事をまったく読んだことがないので、ぼくが現時点でわかることはこれが限界です。深読みしすぎている部分もあるけど、『神曲』の「自殺者の森」がモチーフになっているのは間違いないのではないでしょうか。

 

 

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